喫煙対策の倫理
広島県医師会 副会長
津谷内科呼吸器科クリニック 理事長
津谷 隆史
男性の3割が未だに喫煙者である日本では,他の先進国からみると喫煙に対して容認する国民は多い。喫煙対策の基本は,防煙,禁煙,分煙と言われてきたが,分煙に関しては,完全に喫煙の害を防止できないため,早急の受動喫煙対策が必要になってきた。今般,改正健康増進法が制定され,2020年に向けた受動喫煙防止対策が実施される。それに伴い,広島県でも受動喫煙防止に関する条例を見直すことになった。
特に,子どもや妊婦には,受動喫煙による健康被害は計り知れないものがある。公共性の高い官公庁,学校における敷地内全面禁煙はもとより,通学路に面しているコンビニ店外の喫煙所,未成年が出入りする飲食店,その他子どもや妊婦を取り巻くあらゆる場所,場面での全面禁煙,受動喫煙防止対策が必須である。
これらの未解決問題は,2004年に日本も批准しているWHO「たばこ規制枠組条約」第8条においてすでに指摘されていることである。加えて,日本ではほとんど議論されていない問題がこの条約の第5条にある。これはタバコ対策をタバコ産業の干渉から守り発展させるための条項で,まさしく企業の社会的責任,倫理が問われる問題として重要である。WHOの最新の評価で日本はアジア14か国中で一番タバコ産業が活動しやすい国とされ,以下の勧告をうけている。
- 公衆の健康と福祉を増進する責任がある日本政府は,タバコ産業を支援するすべての活動を中止しなければならない。
- 日本政府はJTの「企業の社会的責任」と称する活動と後援イベントから完全に手を引かなければならない。
- 日本政府は,公衆の利用する施設の100%禁煙を義務付けたFCTC第8条違反となる喫煙室を作るための補助金制度をはじめとしたタバコ産業の営業を援助する利益供与を中止すべきである。
- 財務省はタバコ産業とのつながりを全面的に開示すべきである。日本政府は,タバコ産業との関係を律する手続きを定めるべきである。
- 日本政府は,タバコ規制対策と公衆の健康に悪影響をもたらす「天下り」制度を禁止すべきである。
医療従事者として,グローバルな視点からぶれない倫理観をもって,禁煙対策を勧めていく必要がある。
広島県医師会「禁煙コーナー/中国5県医師会の連名による、『受動喫煙ゼロ宣言』」:
http://www.hiroshima.med.or.jp/kenmin/kinen/
津谷内科呼吸器科クリニック:
https://tsuyaclinic.net/