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第47回例会


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47 平成21年 2月19日 法医解剖から見えること―被害者の代言人としての法医学― 長尾 正崇先生


  法医解剖から見えること
     −被害者の代言人としての法医学−



広島大学大学院医歯薬学総合研究科法医学研究室 長尾 正崇


法医学は、医と法との多数の接点において、医学的見地からこれらに対し公正に判断を下し、基本的人権を擁護するなかで、民主的法治国家の安全に寄与していく学問であり、臨床医学の進歩、および社会制度の変遷にともないその対象範囲を拡張し、新たな問題点を発掘し、これらの問題に積極的に関わり得られた新知見を基に新たな科学的な提言を行っていくことが求められている。
したがって、法医学の研究領域は広く、さらに、時代の進展に伴う専門分化のために、その奥行きも益々深化し、医学領域では基礎医学から臨床医学の全ての領域が法医学の関連領域であると言っても過言ではない。もはや法医学は、「法医解剖、すなわち死体を扱う医学」ではなく、基礎医学と臨床医学の境界に位置する法医学の立場からの先端医療・終末期医療に携わる臨床各科への指摘・提言を通して、その発展に積極的に寄与すべきもので、法医学が健全に機能している社会こそが民主主義国家である。
しかしながら、現在においても法医学の重要な使命の一つが、犯罪死体を司法解剖を行い、これから得られた事実を、冤罪の防止、犯罪事実の立件・公訴の提起・公判の維持に資することであることは言を待たない。


 外因死の中で犯罪死体とも非犯罪死体とも断定し得ない死体を「変死体」といい、外因死であるか病死であるか断定し得ない死体を「変死体の疑いのある死体」という。検察官(刑事訴訟法第229条)あるいは司法警察員(同2項)はこれらの変死あるいはその疑いのある死体に対し検視(司法検視)を行う。その際には医師も立ち会い、死体の外表を医学的に検査する検屍(検死・検案)を行い、死体検案書の発行を求められる。司法検視の結果、犯罪死体と判断された場合、また、その疑いがあると判断された場合ならびに医師の届け出を受けた異状死体(確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体)について犯罪性がある場合には、刑事訴訟法第168条に基づき、検察官あるいは司法警察員の嘱託により、裁判官の発行する鑑定処分許可状を得て、非常に強制力の強い司法解剖が行われる。

一方、非犯罪死体の場合には司法警察員による行政検視が行われ、死体見分調書が作成されるが、そのときに医師の立会が求められる(死体取扱規則第6条)。行政検視による外表検査だけでは死因を判断しがたい場合、死体解剖保存法第8条に基づき監察医が行う行政解剖により死因が判定される。死体解剖保存法第8条には「政令で定める地を管轄する都道府県知事は、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置き、これに検案をさせ、又は検案によっても死因の判明しない場合には解剖させることができる。」と規定されており、この制度を監察医制度という。監察医制度のない地域では、死体解剖保存法第7条に基づき、その遺族の承諾を受けて行われる承諾解剖で代行している。


司法解剖における嘱託事項で特に重要な事項は「死因」ならびに「損傷と成傷機転」であり、被害者の外表・内景所見を詳細に検索することにより、加害者の犯行態様・損傷の自他為・事故の別を合理的に判定することが可能となる。また、従来の法医学は裁判医学または刑事法医学の側面が強く、法医病理学を中心とした「死者の法医学」というイメージが定着していた。しかし、近年では「生者の法医学」すなわち、臨床法医学の重要性が増している。
臨床法医学は、
被害者の代言人たる法医学者による法医解剖の膨大な資料の集積を社会及び医療の現場に還元することを目的としており、具体的には、臨床医との連携による直接的な診断や予後判断にとどまらず、法的な手続きなど司法との対応についても助言することが可能である。


 臨床法医学の子ども虐待に対応するシステムとして、1989年に児童法が制定されたイギリスでは、社会サービス局が統括する子ども虐待防止システムが存在する。わが国でも、愛知県、東京都では子ども虐待への対応に臨床法医学者を児童相談所に対するスーパーバイザーとして活用するシステムが確立されている。しかしながら、
わが国においては、臨床法医学の担い手となる臨床医師と看護師に対する教育システムが不備であり、その認定も行われていない。早急にイギリス・北米の制度を参考にした臨床法医専門医と法医(司法)看護師の育成と認定制度の導入を検討する必要がある。






 

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