「いのち」の語源は「息の内」「息の道」であるといわれていて、呼吸としての「息」こそ「生き」であること、また、「むすこ(生す子)」「むすめ(生す女)」に「息子」「息女」の字を当てていることからも、息(いのち)は引き継がれていくものと考えられていた。
「息を引き取る」という言葉も,単に死を意味するのではなく,息(いのち)を引き継ぐという意味がある。 (立川昭二:「いのちの文化史」(新潮選書)) 「生命」は漢語であり「いのち」は和語である。
われわれ日本人は 古代より「いのち」に対し特別な考え方をしていたものと思われる。私たちは「生命」に関わり医療を行なっているが、しばしば身体の「生命」すなわち疾患に焦点を当てた医療に陥り易い。「いのち」に焦点を当てると医療の幅が疾患から「病をもった一人ひとりの患者」に光を当てられるはずである。全人的医療にはそのような視座こそ必要である。
患者さんの生きてきた歴史によりそい、人間全体をみる医療について、私の出会った患者さんたちを通し「いのちの医療」について語りたい。