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平成21年 8月26日 |
「小児保健・医療・福祉の最近の問題点 ― 生命倫理的視点から考える」 |
桑原 正彦先生 |
「小児保健・医療・福祉の最近の問題点
― 生命倫理的視点から考える」
社団法人 日本小児科医会
副会長 桑原 正彦
少子・高齢社会が到来した我が国では、明日の日本を担う子どもたちの育成は、最重要課題である。
しかし、我が国は、本当に子どもを大切にしている社会と言えるであろうか?
2005年のユニセフのデータによると、子どもの貧困率は、OECD26か国の中で、下から10番目である。生活保護家庭のレベルまで届かない経済状態の家庭の子どもが、14.3%もいる。さらに、女性の労働力に多くを依存している我が国では、保育施設の不足が深刻な問題である。
大不況に陥っている我が国では、個々人の収入格差の拡大、フリーターの増大、ワーキングプア勤労者の増加などが誘因となって、保険料が支払えないために、国民健康保険にも入れない子どもが全国で3,3000人もいるとの報告もある。事実上の無保険である。 そのため、医療機関にも受診できずに、健康格差の拡大を招いている。2006年の厚労省の労働力調査によると、失業率と国民保険の保険料の未納率は完全に相関している。
このような、不況下での子どもたちの暮らしは、高等教育や塾などの節約、お稽古ごと、お小遣いの節約、ヘッドホンやステレオ、お小遣いの節約などで、しのいでいる。
文科省の調査では、小学6年生の全国学力テストの正答率と保護者の年収との間に相関関係があり、最大23%の差があったとしている。
小児の健全育成を支援する小児保健の分野では、法的に決められた乳幼児健診は、3歳児健診までで、その後、軽度発達障害などのチェックに必要な5歳児の健診まで行っている自治体は非常に少ない。さらに予防接種については、世界の先進国と比較して、その接種体制といい、種類といい、将来展望といい、極めて遅れている。この分野においても、日本独自の「予防接種事業総合将来計画策定」を早急に作り、実行に移すべきである。
小児医療について、小児科医の不足が全面に出ているが、小児の医療資源の偏在が顕著であり、NICUやPICUを含めた「極めて重症の小児患者を治療する3次医療機関」の整備が急務である。さらに、2次医療を担当する中小病院の小児科勤務医の待遇改善もひつようである。そのためには、予算措置のみで事足りるのでなく、初期医療の整備と患者教育が必要である。
「熱が出たら、すぐに小児科医へ」ではなく、まず、家庭で対応、次に「かかりつけ医」へ、それでも治らなければ高次病院へ、という社会的コンセンサスを作らなければならない。
2009年7月の「改正臓器移植法」が成立し、1年先に施行される。これで、小児の患者が海外で移植を受けることが少なくなるのか。疑問である。
今後、小児の脳死の判定基準の再評価、手続きの簡素化、高次医療体制を整備して患者・保護者が充分に、脳死を容認できる医療体制の整備を図らなければならない。
日本小児科医会、日本小児科学会、日本小児保健協会は協働して、「子どもを守る社会と医療」を推進している。現在、日本医師会と共同で「小児保健法」(案)の法制化に取り組んでいる。
「小児は、その発達段階に応じて、心身共に健やかに育成されなければならない」という理念法である。早期の法制化を期待する。
日本小児科医会の初代会長、内藤寿七郎氏は、「子どもを大切にしない国は、滅びる」という名言を残した。
私たちは、古代ローマ帝国やギリシャなどの轍を踏まないように、心すべきである。
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参加者から寄せられた感想
私は今回の講義を受けて、これから親になっていく自分たちにとって、とても大切なお話だと思いました。少子化が進む日本の現状とその理由や少子化対策の不十分さを詳しく知ることができました。また、1番考えさせられた問題点はやはり小児科医の不足のことです。
小児科医の絶対数が不足しているのは、過労や労働環境の劣悪化が問題だと分かりました。
しかし、この事態を招いていたのは、子ども達の親も原因のひとつだということも分かりました。
通常時間に受診できない親の理由として、1位が「仕事」で76.3%もあり、1番重要な理由である「急病である」は 6.5%ということにはとてもびっくりしました。そして、仕事・用事・仕事が休めないという項目を合わせると80.8%もありました。そして、その中で医者から見た重症度は、全体の1割程度でした。一般的な家庭医学の知識のない母親や会社を休めない親たちが増えたことが小児科医不足の原因の一つだと思いました。しかし、この問題には政治の問題も大きく関わっていました。政治の話は難しく理解できなかったこともありましたが、もっと国は少子化問題に目を向けて小児科医の過労などの問題にも積極的に解決していってほしいと思いました。
私が看護師になってからできることは、母親たちに知識を指導したり、自分も知識ある母親になることだと思います。小児科医のこうした問題を解決していくことは、子育てがしやすい国につながっていくことだと思いました。 (高校3年生)
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