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61 |
平成24年6月21日 |
「病院勤務医の過労は解消したのか
−小児科勤務医の実態調査から考える−」 |
江原 朗 先生 |
病院勤務医の過労は解消したのか
−小児科勤務医の実態調査から考える−
広島国際大学 医療経営学部 教授 江原 朗
演者は、日本小児科学会・(旧)小児医療提供体制検討委員会において、「病院小児科・医師現状調査(2010年12月)」の解析に携わる機会を得ました。そこで、平成24年4月の福岡市で開催された学術集会で公開された調査報告書(概要版)をひもとき、また、病院における労務管理の実態を明らかにしていきたいと存じます。
まず、平成22年12月に行った病院小児科・医師現状調査の結果をお示しします。小児科標榜の病院2752施設に回答用紙を送付し、1113施設から回答がありました。回答率は40.4%でした。
多くの小児科勤務医は、月あたり5〜6日の休日を取得しています。しかし、大学病院では3〜4日と短く、一方、一般病院勤務の小児科医では、休日取得日数が3〜4日、5〜6日、7〜8日とばらつきがみられました。
現在、小児科では女性医師が増えており、20代では約半数、30代では約4割が女性です。しかし、小さな子供をかかえ女性医師に対する育児支援は十分とは言えません。大学病院では、約7割の施設が託児制度を有しますが、一般病院では6割近くの施設が医師のこどもに対する託児制度がありません。
平均の時間外勤務時間は、20代が最も長く月120時間にも及びます。1日当たりで4時間です。さらに、即応を求められる自宅待機(宅直オンコール)を加えると、その時間は月180時間にもなります。
また、こうした勤務時間は、病院の所在地の都市の規模によっても異なります。もっとも勤務時間の長かったのは、人口30万人以上の中核市にある病院でした。一方、自宅待機も含めた拘束時間が長かったのは、人口20万人未満の市町村にある病院でした。
地域別にみると、勤務時間が長い病院は北海道、東北、九州・沖縄に存在し、自宅待機も含めた拘束時間の長い病院は北海道、東北、中国、九州・沖縄に存在していました。
では、一般に労務管理の実態はどうなっているのでしょうか。平成14年3月、厚生労働省労働基準局より病院の宿日直に関する通達が出され、宿日直勤務を「病室の定時巡回、少数の要注意患者の定時検脈など、軽度又は短時間の業務のみ」としています。しかし、各病院の労務管理の実態はわかりません。ですが、公立病院に関しては、情報公開制度を用いてその詳細を知ることができます。
休日・夜間における救急外来診療を実施している多くの公立病院では、「当直」勤務は、宿日直の定義に合致しておりません。多くの医療現場は労働法規を無視した労務管理を行っているのが現状です。平成21年4月の奈良県の調査によるますと、「当直」勤務の際に通常の診療行為を行っても、栃木、群馬、東京, 石川、福井、島根の6都県では、時間外の割増賃金が支払われていませんでした。
一方、県立奈良病院産婦人科医師が時間外手当等請求事件を提起し、1審・2審で「当直に対しては宿直手当ではなく、時間外の割増賃金を支払え」との判決が下り、現在、最高裁で係争中です。住民サービスを拡充のため、夜間・休日の診療を拡充させようとしても、人件費コストや医療職の労働衛生を無視した労務管理は不可能です。さらに、医療職の疲弊は医療安全さえも脅かす危険性さえあるのです。
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