広島の地域医療を考える
広島大学大学院医歯薬保健学研究院 分子内科学
教授 河野 修興
広島の地域医療は崩壊に瀕しているが、その原因と現状分析を行い、対策について考えてみたい。
医療崩壊とは、医療供給側の実状と医療を受ける国民の期待とに乖離が発生している状態と考えることができる。その差が大きすぎてどのような対応すればこの問題を解決することができるのかわからない状態になっている。
これは全国的な問題である。一方で、広島の状況はすこぶる悪く、近い将来、医師不足の程度は広島が最悪になる可能性が高いという予測がある。新卒後医師研修制度は平成16年度から始まったのであるが、その後、他県に比べて人口当たりの医師数のランクが非常な勢いで低下し始めている。日経BPは、早晩46位、ついには47位の最下位に転落すると予想しているのである。
その原因を探ってみるとこの予想があながち杞憂とばかりは言っておられないことが解った。広島県の人口は約280万人、全国12位を誇る地方としては極めて大きな県である。ところが、広島県には医師を養成できる大学は1校しかない。私の務める広島大学医学部医学科である。現在の卒業生数は100名(今後117名)であり、広島県の人口当たりの医師輩出能力は47都道府県の中で42位である。広島大学卒業生の広島県内残留率を増加させれば何とかなると考えている向きもあるが、これはほぼ不可能に近い。何故ならば、広島大学医学部医学科生の県内残留率は既に限界に近いくらい高いからである。実際、研修医数は減少しており、今後も回復の決め手はない。対策としては、(1)研修医募集定員の増加と(2)医科大学の新設の2つしかないであろう。
医師の偏在を解決すれば何とかなるという意見も聞くが、これは荒唐無稽な考えであり、診療科偏在と地域偏在は絶対的医師不足の中で発生しているであり、まずは医師数を1.5倍程度に増加させる方策をとらなければ、医療の均てん化など不可能である。
広島県内の絶対的医師数不足の中で発生している医師数偏在にも問題がある。平成20年度から22年度の2年間で広島県の医師数は226名増加しているが、広島市の医師数は236名増加している。従って、広島市以外の医師数は大きく減少しているのである。
このような状況下で、広島大学では各診療科が医師数を相当数減少させ、地域医療の崩壊を防ごうと頑張っているが、今もって改善の端緒は見いだすことができていない。
専門医制度も医療を悪化させている最たるものの一つである。専門医には2つの意味がある。まず、専門家(プロフェッショナル)として高度な医療を施すことができる医師という意味であるが、もう一つ、ある領域の診療しかしませんよ(できませんよ)という医師も意味する。専門医制度が始まった頃は、前者の意味であったのだが、今や後者の意味が強くなっている。そのような意味であれば、医師数をどんなに増加させても、医師不足感は改善しないであろう。専門医制度の抜本的な改良が必要である。第一、専門医という名前がふさわしくない。上級医などといったプロフェッショナル、スペシャリストを表す用語を使うべきである。日本語は言霊とは分離できないからである。