【はじめに】
日本人の死亡原因第一位はがんで,年間
35万人の方が亡くなられ,生涯でがんに罹る率は,男性2人に1人,女性3人に1人と推定されています。新たにがんと診断された全国推計値(2006年)は69万人で,男性で胃が最多,大腸,肺と続き,女性で乳房,大腸,胃の順です。日本人の健康管理上,重要ながん対策の一つとして,がん検診による二次予防(早期発見・早期治療)があります。がん検診は診療と異なり,本来健康と思われる人を対象にして,がん死亡率を減少させる目的で行います。この会では,消化器がんを中心に,がん検診の目的・条件,メリット・デメリット,がん検診の評価などから,その意義を考えてみたいと思います。
【がん検診の目的】
がん検診の目的は、がんの死亡率を減少させることです。がんの早期診断、早期治療は目的ではなく、その結果として死亡率減少効果が認められた検診が有効性があるとされます。
【評価】
がん検診を行った結果として、発見されるがん数が多い、早期のがんが多い、生存期間が長いなどは、よい結果を示す指標ですが、最終目的である、死亡率減少効果を証明するためには、疫学的な方法が必要です。
調査を行う際に注意すべき点として、偏り(バイアス)が生じることで,間違った結果がえられることもあります。「偏り」が少ない研究がよく、信頼度では、無作為化比較対照試験
(Randomized Controlled Trial)、コホート研究(Cohort study)、症例対照研究(Case Control
study)の順になります。これらの方法で、死亡率減少効果が証明されたものが、がん検診として推奨されています。
【種類】
がん検診の種類には、対策型検診と任意型検診があります。対策型検診として、市町が実施するがん検診 (住民検診,地域検診)、勤務地や保険者が実施するがん検診 (職域検診)があり、集団の死亡率を減らす目的で行います。任意型検診は、個人の死亡を減らす目的で行い、人間ドック等があります。
検診では、対象者を選定し、スクリーニング(ふるい分け)検査を行い、所見なしであれば次回、 有所見であれば精密検査とします。
【精度】
がん検診の精度には指標となる数値があります。「感度」=がんのうち,検査で陽性とでる率。「偽陰性・偽陰性率」=がんのうち,検査で陰性となる率。「偽陽性・偽陽性率」=がんでないのに,検査で陽性となる率。「特異度」=疾患のないもののうち,検査で陰性となる率。
【メリットとデメリット】
がん検診で得られるメリットは、早期発見,早期治療による救命、軽い治療で済むこと、QOLがよいこと、前がん病変の処置で将来のがんが減少すること、「異常なし」で「安心」できることなどがあります。
また、デメリットも存在し、偽陰性、偽陽性、検査の偶発症や被曝、不必要な治療の可能性、治療の合併症、心理的負担、経費などがあります。
総合的にみてメリットがデメリットを上回ることが、検診を行うための条件です。
【予防】
がんの発生を防ぐ一次予防としては,リスクの除去(食事は偏らずバランスよく、たばこをすわない、飲酒は1合まで、顔の赤くなる人は無理して酒を飲まない、適度に運動するなど)やワクチン接種等があります。早期発見早期治療でがん死を防ぐ二次予防には、がん検診,検査を受けることがあります。
【まとめ】
どんなものにもメリット、デメリットがあります。総合的にメリットがあるということで、検診は行われています。正しい方法(対象年齢、検査の方法や間隔、精密検査が必要な人は受けること)で、その効果がでますので、よく理解して受診していただくことが大切です。