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第85回例会


開催年月日   テーマ  話題提供者
85 平成28年6月16日 超高齢者を対象とした臨床試験を例に臨床倫理を考える 多幾山 渉 先生


超高齢者を対象とした臨床試験を例に臨床倫理を考える



世羅中央病院企業団 企業長
 多幾山 渉


 過去において、医学の進歩の名のもとに多くの非人道的な人体実験が繰り返されてきた。現在においてもヘルシンキ宣言に述べられているように、医学の進歩のためには人を対象とした研究はどうしても必要である。従って、再び過ちを繰り返さないために、臨床研究には、倫理性の確保を欠かすことができない。すなわち、臨床試験を行うときには、被験者保護に対して最大限の配慮を払わなければならない。このような観点から、1979年、米国において臨床試験における4つの倫理原則すなわち1.自律尊重(autonomy)2.善行(beneficence)3.正義・公平(justice) 4.無危害(non- maleficence)が提唱されたが、具体的倫理要件の判断基準としてはやや応用しにくいため、2000年にEmanuel EJらにより、一般的に用いられやすい7倫理的要件が発表されている。それらは後に改訂が加えられて、①研究を実施する地域社会との連携、②社会的・科学的価値、③科学的妥当性、④適正な被験者の選択、⑤適切なリスク/ベネフィットバランス、⑥第3者による独立した審査、⑦インフォームド・コンセント、⑧候補者および被験者の尊重、の8項目となっている。

 今回、仮想事例をもとに、臨床試験における倫理要件のチェックポイントを、この8項目に沿って考えてみた。仮想事例として「超高齢大腸がん患者に対する手術単独群vs術後S1投与群のランダム化第Ⅲ相比較試験」を想定し、仮想試験実施計画書を設定、この試験に内在する倫理的問題点を、8倫理的要件に照らしながら検討した。その結果、この方法を用いると、臨床試験における倫理側面をとらえやすく、倫理審査において便利なツールとなりうると考えられた。

 被験者保護と伴に将来の患者保護の観点から、臨床試験が正しく行われ、その結果が信頼性の高いものであることが倫理上必要不可欠である。臨床試験においても、日常診療と同様にヒューマンエラーが試験計画の策定から結果の解析、公表までの全プロセスにおいて発生することは避けることができない。 従って、これらのエラーをチェックし、是正する仕組みが臨床試験を行っている組織内には必須である。この仕組みがモニタリングと監査で、製造業界でいうところの品質管理、品質保証にあたる。このモニタリングと監査をプロトコール作成から結論の公表まで、研究の全プロセスにおいて行う仕組みが確立されていることが、臨床試験の倫理的要件を満たすために必要であることを強調した。







世羅中央病院企業団
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