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第89回例会


開催年月日   テーマ  話題提供者
89 平成29年2月16日 高齢者の整形外科手術・リハビリにおける倫理 岩森 洋 先生


高齢者の整形外科手術・リハビリにおける倫理



中国電力(株)中電病院 病院長
 岩森 洋


 高齢化社会の到来を迎え,要介護者が今後ますます増加することが予測される。高齢者の皆さんが元気で自立した生活が送れることが最も望ましいが,予期せぬ病気や加齢に伴う身体機能の低下により日常生活動作が制限されていくのが現実である。

 健康寿命とは,人の世話になることもなく自らの力で立ち歩いて生活ができる期間であるが,平均寿命との格差の拡大が問題にされている。都道府県別のデータによれば,広島県は比較的に平均寿命の長い長寿県ではあるが健康寿命は短く,平均寿命との差は男性で9.75年,女性で14.55年となっている。特に女性の健康寿命は他県と比べて極めて短く,全国平均では最下位から2番目の低さとなっている。健康寿命を延伸し要介護者を少なくすることは,高齢者のQOLを維持し医療・介護費用の低減を図る上で重要な課題である。

 要介護の原因疾患は,平成25年の「国民生活基礎調査」によれば脳血管障害や認知症などが上位を占めるが,骨折や関節疾患など運動器の疾患が第一位となっている。

 運動器は,人が歩いて移動する,あるいは走るなどの運動機能を果たす上で重要な器官であり,「骨」「関節」「椎間板」「筋肉・神経」から構成される。運動器の加齢に伴う老化・変性は回避できないが,上手に長持ちをさせ生涯にわたって歩き続けるための対策を講じることは可能である。

 2007年に日本整形外科学会が提唱した「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」は,運動器の機能低下を予防することの重要性に警鐘を鳴らしたものである。

 高齢者の運動器疾患としては,骨粗鬆症に起因する脆弱性骨折,荷重関節である膝や股関節の変形性関節症,椎間板の変性による変形性脊椎症や脊椎管狭窄症などが代表的な病気である。中でも高齢者に好発し,要介護あるいは寝たきり状態の原因となりやすい大腿骨近位部骨折は,内科的疾患や認知症などを合併する例も多く集学的な治療体制の構築が必要である。

 大腿骨近位部骨折の治療目的は,骨折部の疼痛緩和と受傷前の活動能力の再獲得であり,原則として手術的治療が第一選択肢となる。骨折の部位により人工骨頭置換術あるいは観血的骨接合術が行われるが,肺炎などの術後合併症のため生命的予後,機能的予後は必ずしも良好とは言えない。そのため受傷後早期(少なくとも1週以内)の対応が推奨されるが,術後1年以内の死亡率も10%と報告されている。

 運動器疾患は生命そのものに直接的には影響しないが,要介護あるいは寝たきり状態に直結し高齢者の自立した生活を阻害する重要な病気である。運動機能は加齢とともに徐々に機能不全に陥るため,バランスのとれた食事摂取や積極的な運動療法(ロコモ体操)の啓蒙に努め,健康寿命の延伸を進めることがこれからの高齢社会において重要な課題である。







中国電力(株)中電病院
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