医療と倫理を考える会・広島
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第92回例会


開催年月日   テーマ  話題提供者
92 平成29年8月17日 超高齢社会の日本が抱える課題
~日本人の死生観、倫理と財政からみた~
岡田 浩佑 先生


超高齢社会の日本が抱える課題~日本人の死生観、倫理と財政からみた~

広島原爆養護ホーム 神田山やすらぎ園 診療所
 岡田 浩佑

 広島原爆被害者養護事業団に属する3カ所の養護ホーム、すなわち舟入むつみ園(1970年~,100名)、神田山やすらぎ園(1982年~,100名)、倉掛のぞみ園(1992年~,300名)の3カ所で高齢の被爆者計500名を収容できるが、現在入園の待機者が2200名いる。

 日本のような超高齢社会では、日本医師会の横倉義武会長が日医ニュースに述べているように、死生観、倫理、財政の面から諸課題を考える必要があり、特に高齢者の人生最終段階の医療について、今後、哲学者、法曹界、宗教界と共に対策を立てていかねばならない。

 哲学といえば、すでに1978年に千葉大学病院で「医の哲学と倫理を考える部会」が立ち上がり、35名の公開講座が開かれて、その記録が「医の心」全6巻として刊行されている。その中には「死生観、ヨーロッパと日本の違い」と題して、日本は自然に恵まれ、人々は自然に沿って生きるのに対して、ヨーロッパでは自然を克服するという対立的死生観の違いを論じたり、また「日本人の生命観―主として日本語を通してみた―」という題で、日本語には主語がなく、その延長線で人生の最後も他人任せということがある。

 神田山やすらぎ園では、2012年4月から月に1回、医療知識スキルアップ研修という勉強会を診療所所長と園長を含むスタッフで、計46回重ねてきた。様々な課題についてその都度100名のデータを点検し、その中で情報を発信する必要があると思われるものは、広島医学、看護学統合研究、日本老年医学雑誌などに10編以上報告してきた。

 人生最終段階の医療について、認知症が3/4を占める我々の施設では、家族とのコミュニケーションを第一に、看取り介護などの同意書を取り交わしてきた。石飛幸三氏の「平穏死のすすめ」を家人に渡して読んでいただいたりした。

 海外に寝たきり老人がいないのに対して、我が国に寝たきりが多いのは、Advance care planning(ACP)(私の心づもり)やAdvance directives(事前表明)への取り組みが不足していたためか。我が国の尊厳死協会の会員が12万人(人口の0.1%)と米国の20%~40%に比べて少ないのは、単なる宗教上の違いだけではないのではないか。広島県地域保健対策協議会でも、長年緩和ケアの推進に取り組まれてきた本家好文医師や、有田健一医師を中心にした取り組みが行われている。舟入むつみ園の自立できている入園者を対象にしたACP聴取結果は、有田医師により広島医学会で報告された。約90%の入園者は延命治療に拒否的であるという。我々は文化的背景や考え方の違う日本でも、海外の良いところは日本人の美学、道徳心、品性を保持しながら取り入れる必要があると考える。

 我々は日本老年医学会で、高齢者の認知症、胃瘻、寝たきり高齢者の骨量増加を意図する高額な副腎甲状腺ホルモン皮下注射などの事例を報告した。また、高齢者の多剤処方の解消、抗潰瘍薬減薬の経験、健康寿命延伸の阻害要因の一つである転倒骨折の改善策などについて報告したが、本会でも改めて述べることにした。






広島原爆養護ホーム 神田山やすらぎ園:
http://www.hge.city.hiroshima.jp/yasuragi/




 

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