医療と倫理を考える会・広島
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第95回例会


開催年月日   テーマ  話題提供者
95 平成30年2月15日 遠隔医療と医療倫理 井内 康輝 先生


遠隔医療と医療倫理

広島大学名誉教授
  株式会社病理診断センター代表取締役社長
  NPO法人総合遠隔医療支援機構理事長

 井内 康輝

 遠隔医療の定義は、患者さんに直接対面せず、ICTなどの通信技術を活用して、医療を行うことをさす。大きく分けると、医師と患者さんとの間で行う場合(Doctor to Patient, D to Pと略される)と医師間、あるいは看護師、保健師などの医療の担い手の間で行う場合(Doctor to Doctor, D to D, Doctor to Nurse, D to N)がある。また、医療の内容で分ければ、専門的医療支援(放射線画像診断、病理画像診断、ホルター心電図解析など)、救急医療支援(二次搬送トリアージなど)、在宅医療(訪問診療のフォローなど)などとなる。

 医師法第20条によれば、医師は自ら診察しないで治療を行うこと、もしくは診断書や処方せんを交付することは禁じられているが、地方における医師不足や医師偏在の問題から、この原則をこえる行為の適応範囲が次第に拡がり、対面診療が基本で遠隔医療は補完的という従来の見解から、現在は医療システムの中で有力な選択肢を提供しうるとされている。

 私が担っている遠隔病理診断は、病理標本をデジタル化して、光ファイバーやインターネットを用いてデータを転送し、遠隔地で病理診断を行うものである。日本における病理医の絶対数は不足しており、地方では大学からの非常勤医師に頼って病理診断業務が行われているが、術中迅速診断への対応が不可能であること、診断までの日数がかかりすぎる、などの問題点が指摘される、また、病理診断も各臓器の病変について専門性が高くなり、ひとりの病理医がその全てに対応することは困難となりつつあり、病理医間でもコンサルテーションの必要性が叫ばれる。こうした状況下では遠隔病理診断を普及させることは、社会のニーズととらえるべきであろう。

 しかしここで、遠隔医療全体の倫理的な問題点を整理しておく必要がある。D to Pについては、前述した医師法第20条に関連する基本的な問題があるが、D to Dについては、1.診断の責任の所在—受信側か送信側か、という点と、2.患者情報の秘匿は守られているか、という問題点があげられている。前者については、受信側(依頼者側)にあるというのが一般的な考え方である。後者については、通信技術の進歩によって信頼度は増しているが、完全に守られるという保証はない。

 一方で、こうした方法を用いれば、多くの患者のデータを集積していくことが可能となり、個人情報をビックデータとして主として疫学的研究に用いることができるという現実がある。こうした医療に関するビックデータの解析は、特定の個人の情報を知ることが目的ではなく、疾病の発生状況、疾病の経過や治療の有効性を知るために有用である。今後、個人情報保護に関して、一方的な保護優先から、保護と共有の調和をはかることが求められよう。

 私自身が遠隔医療の手法を用いて海外医療支援を行った中でも倫理問題にかかわった経験がある。カンボジアでの女性乳がん検診プロジェクトでは、カンボジアの倫理審査に合格する必要があった。モンゴルでの呼吸器疾患の早期診断プロジェクトでは、支援を受けるJICAの倫理規定にもとづいて、日本側が診断を下すという用語は用いないことを指摘された。医療がグローバル化する中で、多くの国がかかわるさまざまな医療現場で、医療倫理の問題も念頭においておく必要があろう。






株式会社病理診断センター:
http://www.byouri.co.jp/

NPO法人 総合遠隔医療支援機構:
https://crm.hiroshima.jp/




 

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