医療と倫理を考える会・広島
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第98回例会


開催年月日   テーマ  話題提供者
98 平成30年8月23日 災害医療と倫理
 〜一般臨床医が災害医療に関わる時〜
村田 裕彦 先生


災害医療と倫理 〜一般臨床医が災害医療に関わる時〜

広島共立病院 院長
 村田 裕彦

 近年、大規模災害が頻発しており、災害医療を専門としていない医療関係者も災害医療に関する知識と心構えが必要である。災害に直面した時、医療関係者の多くは直観に基づいて意思決定していると思われるが、 直観による行為の評価や倫理的な課題には医療倫理や原則が役立つ。特に医療倫理の四原則とそこから導き出された道徳規則は災害医療でも重要である。

 災害医療の基本であるトリアージは、古典的にも医療資源配分の倫理的問題で取り上げられてきた。 トリアージは「選別」を意味するフランス語trierに由来、ナポレオンの軍医総監ラレーの考案とされている。 戦場では、早く復帰できる見込みに応じて兵士を治療したが、現代の災害医療では、重症度・緊急度に応じて治療や搬送がされる。 この「〜に応じて」は、医療資源の乏しい中で採用すべき実質的原則であり、分配的正義による判断がなされる。

 法は倫理の最低限という言葉があるが、1990年代以降は、災害が起こるたびに法制度がめまぐるしく変わってきており、 それには対応していかなければならない。現在では災害対策基本法を骨格に、 災害時には災害救助法が発動し法の下で救助活動が行われる。災害時の医療は、救護班によって行われるが、 日本赤十字救護班、阪神淡路大震災後に発足したDMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)、 東日本大震災の発災直後に発足したJMAT(Japan Medical Association Team:日本医師会災害医療チーム )など、 組織的に救護班が派遣されるようになった。 救助班はシームレスな引き継ぎを行い、被災地域の医療の回復に結びつけなければならない。

 災害医療活動の基本コンセプトが、CSCATTT(Command and Control:指揮・統制、Safty:安全、 Communication:情報伝達、Assessment:評価、Triage:トリアージ、Treatment:治療、Transport:搬送)である。 医療資源の乏しい中で、活動するためには特に最初のCが大切である。 超急性期の災害現場では、現地合同指揮本部の指揮に従い、 避難所等での活動は県や地域の災害対策本部の統制に従うことが重要である。

 災害医療は外傷中心の急性期医療提供体制から整備されてきたが、 被災者の権利を守る立場での急性期から亜急性期の支援は遅れている。 国際的には「人道憲章と人道支援に関する最低基準(スフィア基準)」が1998年に作られ、現在2011年度版で、 日本語版が2012年に発行され、注目が集まっている。基本指標として、 「水と衛生」では、1日1人当たり水15リットル、20人あたりトイレ1つ。 「食料」では、1日1人当たり2100kcal (日本人高齢者には多い)、カロリーの10%はタンパク質。 「避難所」では、1人当たり覆われた居住空間3.5m2 、 住居からトイレまで50m以下、等が提起されている。 日本の避難所は相変わらず雑魚寝状態であり、早急な整備が求められる。






広島医療生活協同組合 広島共立病院:
http://www.hiroshimairyo.or.jp/




 

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